2015.5.27 【あばのコト, あばのトコロ, あばのヒト, あば通信】 投稿者:bo-kun_chan
あば村では4年前から、美しい自然環境を守る取り組みの一つとして「アヒル農法」を継続的に実践してきました。田んぼの中で、アヒルを小さな雛の時期から育てます。雛は稲の生育を阻害する虫類を食べてくれたり、泳ぎ回ることで雑草が抜け、かき回すことで土に空気が入り込みます。
先日、5月23日(土)にあひる雛の放鳥式が行われました。その時の様子も合わせて、本日は少しだけあば村の、アヒル米の歩みをご紹介したいと思います。
5月15日。空には薄く雲がかかる、まだまだ肌寒い日の朝。アヒル農法実践圃場の田植えを行いました。田んぼはあば村の中心、大畑地区に位置します。小学校、役場、公民館、温泉、合同会社あば村に囲まれた場所。たくさんの人が通り、見守る場所でアヒルと稲は大きくなるのです。
今年の実践者は、あば村にお住いの若手農業者 藤井昌博さん。『どんな人でも、安心に食べることのできる農産物が作りたい』という想いを持ち、お米の他にもりんご・メロン・とうもろこしなど様々な農業を営んでおられます。
ー田植えをする藤井昌博さん
4年前に、当時のエコビレッジ阿波構想の中で地域のブランド開発を進めていました。『環境に配慮した農業を』をコンセプトにアヒル農法の話が持ち上がりました。その時に生産者として手を挙げたのが藤井さんでした。岡山商科大学経営学部 商学科 岸田芳朗教授のご指導のもと、アヒル米生産がスタートしました。
ー機械が植えた後、空いている隙間に稲を手植えしていく『捕植』の作業。一つの隙間も見逃しません。
3年間のアヒル米生産。正直なところ、順風満帆ではありませんでした。
お米を作ることも難しいのに、その上にアヒルのお世話をする。作業は予想以上に困難なものでした。
アヒルが大きく成長しすぎると、稲を食べ始めてしまいます。数も、少なくても多すぎてもダメです。また、自然というものは厳しく田んぼに離している間にカラスや野犬などにやられたり。足を痛めて思うように動けないアヒルも出てきました。
また、あば村(当時のエコビレッジ阿波推進協議会)として事業を開始したものの、なかなか地域に広がらなかったという背景もあります。いつしか、最初に手を挙げて生産者となった藤井さんのアヒル米という空気になっていたのかもしれません。
同時に少し珍しい農法であること、アヒルの可愛さなどもあってか、事業自体は非常に高い人気をいただきました。テレビや雑誌にも毎年のようにご紹介いただき、地域へのお問い合わせもたくさんいただいておりました。本当に嬉しいことです。
ただ、裏返すとアヒル農法を続けなければならないというプレッシャーにもなってきました。そして、その重圧も生産者である藤井さんに重くのしかかることになってしまいました。
少しお話が変わります。アヒル農法についての問い合わせではいつも
「飼育されたアヒルは、最後どうなるのですか?」と質問をいただきます。結論からいいますと、食肉へと加工します。
2月に開催された『あば村宣言記念フォーラム』の際にアヒル肉を提供しました。
あば村に移住してこられた田崎孝平さんに調理していただきました。
アヒル肉を生ハムへと加工し、同じ阿波産のりんごに巻かれています。上にかかったソースは、同じく藤井さんの無農薬栽培で育てられた人参の葉っぱで作ったもの。田崎さん自身も、東日本大震災をきっかけにあば村へ移住してこられました。本当に安心して口にできる食を生み出したいという想いは、藤井さんと同じです。
そんな二人から生み出されたあひる肉料理。
地域の方も、「これがあんなに可愛かったアヒルなの!」と驚いておられました。
ー『あば村宣言記念フォーラム』にて、藤井さんと田崎さんのコラボ料理。材料はすべてあば産。
アヒルも、食肉にすることを前提として飼育しています。同じ場所でアヒル米とアヒル肉を同時に生産しますので、単位面積当たりの収益は単純に考えると上がります。(もちろん、餌代なども別途かかりますが。)
家畜としてアヒルを飼育することにも、藤井さんは違和感を感じておられました。何と言えばいいか分からないけれど、整理のつかない複雑な感情が、アヒル米の生産とともに膨らんでいったのです。
この場でする話ではないかもしれませんが…
今年もアヒル米の生産を行うかどうか分からない状況でした。
せっかく地域の取り組みとして始まったことなのに、地域の中で広がっていく未来が見えてこない。そんな底なし沼の状態で、なんとか一年一年確実に、アヒル農法を続けて来られました。もしかしたら、藤井さんの心に地域に対しての不信感が生まれていたかもしれません。
それでも、今年も、「せっかく続けてきたことなのだから。」とアヒル農法に取り組む事を決意されました。そんな3年間の、藤井さんの下積み、努力、思い悩みながらも粛々と続けてこられた姿が仲間を呼び始めました。
あば村運営協議会の有志メンバーが自主的に集会を開催したのです。もちろん、藤井さんも含めて。議題は『アヒル米をどうするか。』まだまだ先の見えない、これからどうなるのか、自分たちに何ができるのかも分からない。外から見たら何をしているのか全く分からない集まりかもしれません。
ただ一つ、メンバーの共通した想いがありました。
『あば村にアヒル農法を広げていきたい。』
ここまでの成果と努力を、全て無くしてはいけない。
なんとか継続するように、もっとみんなに知ってもらうために、どうすればいいのか。
あば村に『本当に生きたアヒル農法を広げるためには。』何ができるのか…
その答えの一つが、先日行いました あば村の子どもたちを対象にした『アヒルの放鳥式』でした。
5月22日(金)。明日にアヒルの放鳥式を迎えた、良く晴れた気持ちの良い日。
アヒルの雛たちがあば村に到着しました。アヒルが元気に育っていくためには、一番最初の水浴びがとても大切だそうです。そんな貴重な水浴びを、今年は藤井さんだけでなく地域の方と行いました。
地域の方と言っても、とあるお家の裏庭で…なんですが。
それでも田んぼに離すまえから、地域の取り組みとして行いたかったのです。近くには『渓流茶屋』という小さな食堂があるのですが、そこに来た地域の方々も噂を聞いて雛を見に来て頂いたり。あひるを通して、小さな小さな交流も生まれました。
ー裏庭を貸していただいた大塚さんとあひるの雛。大塚さんは雛が襲われないように一日中見守ってくださいました。本当にありがとうございました。
翌日。5月23日(日)
アヒルの放鳥式当日です。実行委員会を形成したメンバーも、本当に子どもたちが来てくれるのかドキドキして待っていました。
気づけば、アヒル田んぼの前がたくさんの子どもたちの笑顔で溢れていました!!
大人も子どもも合わせて、合計50名以上の方々に集まっていただきました。こんなにアヒル田んぼの前に人が集まったのは初めてかもしれません。
ー集合写真。この脇にも写真に写るのが恥ずかしい地域のみなさんもたくさんおられました。
藤井さんも思わず笑顔に。
「何よりもまず、あばの子どもたちに触れ合ってほしい。」と誰よりも願っていたのは藤井さんでした。その想いに触れた実行委員会のメンバーが、地域のこども会さんにご協力をお願いしたり、村内放送で宣伝をお頼みしたり… それぞれができることで一緒に運営を行いました。
ー放鳥前に、雛の持ち方や注意点を説明する藤井さん。嬉しそう。
放鳥をする子どもたちもこの笑顔。
「アヒルさん可愛いよ!!」「これから頑張ってね!!」「また見に来るからね!!」「大きくなってね!!」
アヒルの雛への声援が飛び交います。それを見守る保護者のみなさんもまた笑顔です。そして、お子さん連れだけでなく、噂をききつけた地域のかたがたも放鳥式に出向いていただきました。これから頑張るあひるの雛を見届けるためなのでしょうか、もしかしたら、久しぶりにあば村で集まる子どもたちの元気な姿を見に来たのかもしれません。
ー藤井さんの『せーの!』の掛け声のもと、アヒルを放鳥しました。
間違いないのは、アヒル田んぼを中心に、多くの関係者の強い願いのもと、この温かい空間が生まれたということです。
ー放鳥後、さっそく泳ぎ出しました。初めての場所で少し不安なのか集団行動は欠かしません。
今年は、日常のアヒル米生産活動もみんなで手分けしてやってみます。
田植えのすぐ後には、アヒルの雛がカラスやトンビにやられないようにテグス張りを行いました。
これからは、毎朝晩の餌やりも人口委員会のメンバーで担当に分けて行っていきます。
今朝(5月27日)の餌やりの様子です。時間は6時半ごろ。
アヒルの雛たちは、放鳥式の日と比べて明らかに大きく成長していました。餌を準備していると、臭いでわかるのか『バシャバシャバシャ!!』と一生懸命に田んぼを走って、小屋まで戻ってきます。もう餌をもらえる場所が分かるそうです。
ー朝の餌やりの様子。我先にと餌を欲しがる雛たちがとてつもなく可愛い。
今後も、あば村運営協議会では、アヒル農法を通した様々な企画を展開していく予定です。
近日中に
『アヒル農法 お絵描き大会』『アヒル農法 フォトコンテスト』(共に仮称)を開催します。
(詳細は決まり次第、このHPなどでお知らせいたします。)
すべてが、小さなことですけれど、無駄にはならないと信じています。
いつかあば村のいたるところでアヒルの声が聞こえて来る。そんな景色を夢見て今年もまた一歩を踏み出しました。
今後も、アヒルの状況はこのHP内でお知らせしていきます。
どうかこの記事を読んでいただいた皆さまも、あば村の想いを受け止めていただき、アヒルさんを見に来ていただけると喜びます。
【アヒル米の生産が始まりました。】 次回へ、続く。
記事本文:坊 将一
Thanks :
取材させていただいた藤井昌博さん
アヒル米実行委員会の皆様
裏庭を貸していただいた大塚さん
放鳥式に来ていただきた地域の皆様
今も頑張って泳いでいるアヒルさんたち
※ 今年のアヒル米の販売方法については、今後あば村運営協議会の方で検討していきます。
みなさまにも販売できる目処が立ちましたらこのHPでもお知らせいたします。お待ちください。
※ アヒルの雛は繊細な生き物です。見学や写真を撮られる際には大きな刺激を与えないよう注意してください。
※ この記事では、生産者さんの許可のもとアヒル田んぼ内に入っての写真撮影を行っています。
くれぐれも無断でアヒル田んぼ内へ入らないようお願いいたします。