【特集】蕎麦職人:佐々木操 Vol.2 蕎麦を創る

2015.2.26 【あばのコト, あばのヒト, あば通信】 投稿者:bo-kun_chan


 

【特集】てまひま

『技』という漢字は、『手で支える』と書きます。ここあば村でも、ゆっくりとした時間
の中で、手間をかけ暇を惜しまずに手に技を宿してきた村人がたくさんおられます。そん
な村人の『手仕事』に注目してご紹介していくのが【特集】てまひま です。

 


 

 

蕎麦職人:佐々木 操(みさお) 《蕎麦を創る技》

 

 

 

Vol.1 木を切る では、仕事を通したかっこいい操さんを見ていただきました。
胸の中にある確かな山への愛と、木への情熱に触れ、感動や憧れといった色んな感情が
ぼーくんの中で渦巻きました。それをそのまま伝えた記事です。まだ目にしておられな
い方がおられましたら、一読ください。
(Vol.1 木を切る技 https://abamura.com/tsusin/2112

 

 

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さて、かっこいい操さん、実は趣味でそば打ちをしておられます。あば村では約10年
ほど前に『阿波蕎麦打ち倶楽部』という物が発足し、地域を上げて蕎麦打ちに取り組ん
できていました。今ではもう解散してしまいましたが、操さんも当時からのメンバー。
今でも年越しそばや、ご近所に配る分はもちろん、あば村内の祭りやイベントでも出店
をしておられます。今日はそんな蕎麦職人としての操さんをご紹介します。

 

 


 

 

 

8月末。標高の高いあば村といえど、日中は汗が溢れ出るほど暑いです。夏はクーラーも
いらないって言ったやつ、誰だよとか思いながら自転車で走っていたら、真っ白なお花畑
を見つけました。

 

 

そば畑

 

 

見渡す限り白い花が広がる。暑いけど、これを見ているとそんなの感じなくなるぐらい美
しい。初めて見る花に、ぼーくんは夢中になりました。ぼーっと眺めていると、遠くで犬
が吠えて、我に帰りました。近所のおっちゃんに聞くと、これは蕎麦の花だそう。
そして、あの山の中で木を切る姿に感動した操さんの蕎麦畑だそうです。

 

 

 

確かに、趣味は蕎麦打ちを言っていましたが、まさか実から作るとは思っていませんでし
た。さっそく操さんを尋ねます、蕎麦を食べたい下心とともに。
「おう、粉ができたら一緒に食べようや!!ただ、実を落とすのが大変なんじゃ。のう。
実を落とすのが、大変なんじゃ。
なるほど、さすが山師、木の心を読めるのだから僕の下心を読むくらい朝飯前なんですね。

 

 

と、いうことで1ヶ月半待ち、蕎麦の実を落とす作業をお手伝いに行きました。

 

 


 

 

 

 

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あんなに白くて可愛かった蕎麦の花も、枯れて黒々としていました。道沿いの柵に蕎麦を
干すあたりもなかなかワイルドです。この大量のそばの実、どうやって落としていくので
しょうか。
「みさおさん、実を採るってどうやってす….」

 

 

 

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操さんは、おもむろに枯れた蕎麦をこすり始めた!!

そうです、全部手作業で実を落としていきます。機械を使えば確かに早いけど、やっぱり、
汗水流して手作業で落とした実は、質も収量も全然違うとのことです。こするたびにボロボ
ロと落ちていくそばの実。そりゃ大変ですね、この作業。ぎっちり敷き詰められたそばの実
と男たちの静かな戦いは始まりました。午後の13時のことでした。

 

 

 

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操さんは、実を一個も残さず丁寧に採っていっています。蕎麦への愛情が伝わる。すごい。
叩けば落ちると言われたけど、ぼーくんがどんなにやっても実は落ちません。何かコツが
あるのだろうかと思って操さんの手元を見ました。
明らかに引きちぎっていました。なるほど。しかし、これも山で働き、手を鍛えてきた操
さんだからこそ成せる技。シティーボーイのぼーくんには痛すぎて無理でした。
「みさおさんや、せめて何か道具でもありませんか?」

 

 

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写真手前のいかつい棒をかしてくれました。かなり無骨で、先端はイボイボだらけ。こぶし
という木の枝を削って操さんが手作りされたそうです。どこかで見たことあると思えば、
桃太郎の鬼が持っている武器みたいではないですか。さすが岡山県です。

 

 

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しかし、とんでもない量のそば。男二人でも足りないので、操さんのお孫さんが助けにきて
くれました。孫が叩き、おじいちゃんが引きちぎる。ほほえましい光景です。

 

 

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綺麗な実がたくさん採れました。

 

 

 

「お、ええ風が吹き始めたな。」
操さんがそわそわし始めました。何を言っているんだこの人は。船でも出すのでしょうか。
山の中なのに。

 

 

 

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なんということでしょう、頑張って落としたそばの実を風で飛ばし始めました。
せっかくお孫さんも来て手伝ってくれているのに。
操さん、何がしたいのでしょうか。

 

 

 

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なんと、自然の風を使って実とゴミを分別しているのだそうです。神業です、これは。
風の強さを見て、少しづつ実を落としていきます。軽いゴミは風に飛ばされていき、少し重い
実は下に落ちて受け皿に残ります。絶妙な手加減と、風を読む力がないとこの技はできません。

 

これも、操さんのこだわりだそうです。
「とにかく機械でやるのは楽で簡単だけど楽しくない。どうせやるなら、自分の手で創りあげ
たいんです。だから、分別も自然のチカラを使って。」

 

 

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自然の風が吹かない時は、自分で息を吹きかけて分別するほどの徹底ぶり。ここまでこだわると
やっぱり蕎麦への想い入れも変わってきて、美味しくなるんだそうです。

 

 

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こちら、昭和33年から使い続けているザル。

 

 

 

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大きくて重いゴミも、まずはこのザルを通して分別。
さらに落ちた実を手作業で風に飛ばして、実だけにしていきます。このこだわりだけは譲れない
そうです。
いつしか、蕎麦を食べるために手伝っていたのが、操さんの一つ一つの細かな技に見入ってしま
いました。丁寧に扱われ、手作業から生まれてくるそばの実が可愛くなってくる。

 

 

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何度も何度も風に当てると、本当にそばの実だけになっていました。ブルーシート一面にびっしり
広がるそばの実。ゴミは1つもありません。

 

 

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なんども実を手で触っているので、いつの間にかピカピカに磨かれている。光に当てると、宝石の
ように輝いて見えます。これが良い蕎麦の実の証拠だそうです。
「手間をかければかけるほど、光ってくれて、こっちも嬉しいんです。」にやりと笑う操さん。

 

 

 

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これをじっくり干して、乾燥させ、粉にするのです。まさかここまで大変な作業だと思っていま
せんでした。けど、ここから手間をかけるからこそ、良い蕎麦ができるんですね。作業後、ヘト
ヘトになりながら、結局汗だくになりながら、ひたすらに蕎麦の実と向き合う時間でした。

 

 


 

 

 

後日。

 

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阿波の福祉センターにあの操さんと村の若者たちが集まりました。今日はみさおさんの蕎麦打ち
教室です。あば村で郵便局に務める女性が、操さんの姿に感動し企画されました。

 

 

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参加者の前で、手早くそばを打ち始める操さん。コツを聞くと
「手早く、テキパキ、だけどじっくり、粘るように、水をさっとなじませ、ゆっくり全体に。
ようは蕎麦の様子を見ながらってことです。」

 

ん?

 

どうやら、操さんは僕の下心も、木の気持ちも読めるし、蕎麦とも会話できるようです。

 

 

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この薄く伸ばしていく作業が一番むずかしいとのこと。
「力を入れずに、そのままで棒を転がせば、生地が自然と伸びていきます。」
参加者もその鮮やかな手つきに見とれています。

 

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蕎麦を育て、採り、磨き、(粉を)挽き、打ち、切るまで。全ての工程を自身でやってしまう。
操さんはもはや蕎麦打ちではない、「そば創り」を楽しんでいるかのようでした。
まさに、1から作られた操さんの蕎麦。茹で上がる前から美味しそう。

 

 

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前回も出てきた、操さんの親友やっちゃんも実は蕎麦名人。操さんいわく、やっちゃんの方が打つ
のは上手のだとか。あっという間に目の前で出来上がる蕎麦。

 

 

 

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子どもたちも楽しそう。自分で食べる分は自分で作ります。包丁は危ないから製麺機で。

 

 

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本当に美味しそうな蕎麦が茹で上がりました。
もちろん、めんつゆも操さんとやっちゃんの手作りです。10年かけてこの味に辿り着いたそう。
薬味のネギと大根おろしも全て操さんのもの
オール阿波産ならに、オール操産です。全部操さんみたいな感じ。

 

 

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美味しすぎてもう必死。

 

 

 

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みんなで記念写真。本当に楽しい時間をありがとうございました。

 

「こうやって、若い人たちとも一緒に楽しめるから蕎麦はいいですよ。」
それは、操さんが自分の手でこだわりを守り続けてきたからこそだと思います。
そこに感動するからこそ、本当に美味しい蕎麦になる。

 

 


 

 

 

 

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蕎麦の実が植わっていた同じ畑、収穫して空き地になっていた場所に再び操さんと村人が集まり
ました。
今度はここに菜の花の種を植えるのだそうです。夏は白い花畑、春には黄色の花畑が見えること
になりそう。

 

 

 

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種を蒔く操さん、本当に楽しそう。
「春には、菜の花の天ぷらとワシの蕎麦で天ぷらそばじゃな!!」
目を輝かせて笑顔を見せてくれました。

 

 

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最後には種がしっかり混ざるように、トラクターまで引いてくれました。感動です。
この菜の花の種、あばファンクラブの有志たちが蒔く場所を探していたところ、操さんは
若いもんが頑張るんならと快くかしてくださいました。そしていつしか、自分自身も楽し
んでくださいました。

 

「せっかくなんじゃけ、楽しいことしようや。」
操さんの口癖です。

 

蕎麦職人として操さんを追いかけると、周りを引き込むこだわりと、引きこまれた人たちと
一緒に楽しもうとする無邪気さと、やはりやることはキッチリとする職人魂を見ることがで
きました。

 

佐々木操さんのような人があば村にいること自体が、地域の財産だと感じました。

 

 

 

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種を蒔き終え、作業後の差し入れも、やっぱりお蕎麦でした 笑

 

 

あぜ道で座ってそばを啜る。ここでしか味わえない至福の時間でした。

 

 

蕎麦職人:佐々木操 Vol.2 蕎麦を創る ー終ー

 


 

 

 

 

こんな素敵な操さんのお蕎麦。
あば村の清流を使って打たれるので、その水が流れる「深山渓谷」の名を取り
『深山蕎麦』といいます。

そこには、山の谷よりも深く強い、操さんの情熱も注がれていました。

 

 

そんな深山そば、
4月中旬にあば村で行われます『尾所の桜まつり』で出店予定です!!

また詳しい日程など決まりましたら、お知らせいたしますのでHPを要チェックですよ!!